ただの洗面台なのだけど、ただの洗面台ではない、というお話(自在館的に)

先日、客室の洗面台を、すこ〜しずつリニューアルし始めました。
自在館は昔から、気づいたらちょっと変わっている、そんな“さりげないリニューアル”が性分の宿です。

311号室の水盤板と、洗面ボウル

サイズや形、色、設置する高さ……ああでもない、こうでもないと考えている時間は、本当に楽しいものです。宿屋をやっていて良かったなぁと思える瞬間でもあります。

ただ今回は、いつもより少し、いえ、だいぶ思い入れの強いリニューアルになりそうです。

というのも、昨年2025年の年末で、長年お世話になってきた戸田工務店さんが、その歴史に幕を閉じられました。
旅館は、日々の小さな修繕から大きな工事まで、設備の維持管理にたくさんの力が必要です。困ったときにすぐ駆けつけてくれて、細かなところまで面倒を見てくださった戸田工務店さんのおかげで、この10年、お客様に気持ちよく泊まっていただくことができました。本当に、感謝してもしきれません。

今回の洗面台のリニューアルは、実はその社長さんからいただいた二枚の一枚板がきっかけでした。
「一目ぼれして買った木材なんだが、どうやら使ってやれそうにない。お前さんとこで使ってやってくれないか?」
そう言って、倉庫で大切に保管されていた「タモ」と「イチョウ」の国産一枚板を譲ってくださったのです。

厚さ10センチ、長さ4200㎜の立派な一枚板
厚さ100㎜、長さ4200㎜の立派な一枚板

どこで使うのが一番いいだろうかと、あれこれ考えました。
せっかくなら、お客様の目に触れ、手に触れる場所がいい。
そこで、あえて水場である客室の洗面台に使ってみることにしました。木材を水場で使うのは手間もかかりますが、そのぶん長く手をかけ、大切に使い続けられるのではないかと思ったのです。

最初に手を入れたのは、205号室・302号室・311号室の三部屋です。いずれもお手洗い付き和室で、常連のお客様には馴染みのある客室かと思います。ご宿泊の際に、ふと変化に気づいていただけたら嬉しいです。

宿屋の修繕は、一般の家のリフォームのように、ゆっくりスケジュールを組めることばかりではありません。急に修繕が必要になることも多く、次のお客様のご来館も決まっています。その中で、使い勝手やデザインなど妥協できない部分も含め、何を優先し、何を諦めるか、代わりの案はないか……限られた時間の中で判断しなければなりません。

そんな状況の中、まだ右も左も分からなかった私に、戸田工務店の社長さんはいつも親身になって相談に乗ってくださいました。
そして時には、はっきりと「ダメなものはダメだ」と教えてくれました。
今の私、そして自在館にとっての“修繕の基礎”をつくってくださった、大切な先輩です。

お客様の使い心地には直接関係ないかもしれませんが、「ああ、そんな背景のある洗面台なんだな」と感じていただけたら、宿屋の主人として、人の想いを少しでもつなげられたようで嬉しく思います。

自在館は、おかげさまで400年以上続けさせていただいています。
その裏には、スタッフだけでなく、本当にたくさんの方々の支えがありました。
これからも、どうか温かく、時に厳しく、見守っていただければ幸いです。